2008年6月15日日曜日

似たもの夫婦と運

 ある山の麓の村に、二人の兄弟がありました。兄は親の命令など一つとして従ったことのない、大の怠惰者で、健強な体を持ちながら、金満家の家に生れたのを幸いに、家を外に遊びまわっているという、親泣かせの不孝者でした。ところが弟はそれにひきかえて、従順で、律義で、勤勉家で、従って親には大切に仕えるという孝行者でした。で、村の人達は、

 『同じ親を持ちながら、どうしてああも違うのだろう』と不思議がつておりました。こんな工合ですから、両親達も、弟の方には何も気にかかることもありませんでしたが、兄のことが心配でたまらないので、人知らず神様に願がけして、どうか兄の行いがよくなりますようにと祈っておりました。

 けれど兄の行いは一向改まらないばかりか、日一日と募って行くので、一層のことお嫁でも待たせたらと、ある人の世話で嫁を迎えました。ところが、この嫁さんが大層気に入って、若夫婦は睦まじく日を送ることになりました。両親もこの有様を見てやっと安心しました。けれどそれも束の間、これが世間によくある似た者夫婦というのでしょう。このお嫁さんがまた兄に劣らない怠惰者の我儘者なのです。家の事も両親のことも一向頓着せず、ただ兄と一緒になって毎日毎日遊び廻ってばかりいるのです。親達は眉を顰めて、飛んだ厄介な嫁を迎えたと後悔しました。こうなると、村の評判も次第に悪くなります。しばらくすると、弟の方もお嫁を貰いました。ところがこれはまた兄のお嫁さんとはまるで反対に正直で、従順で、親を大切にして家事万端を一人で引受けてするという働き手なのです。夫婦仲の睦まじいのは言うまでもありません。村の評判も至って好く、両親達も次第にこの弟夫婦ばかりをたよりにするようになりました。

 こうして暮しているうちに、父が重い病気に罹って床についてしまいました。母や弟夫婦は病床に昼夜詰め切りで、一生懸命介抱しておりましたが、兄の夫婦は看病どころか見舞にも来ず、相変らず一緒に遊び廻っておりました。

 『なあに、阿父の病気なんか心配するほどのことはありやしない。ただの風邪さ。それに弟の奴、いやに胡麻をすりやがって、いつも詰めっきりでいるんだから、今更おれ達が行くには及ばないさ』と、兄達夫婦はこんなことを云いあっているのでした。

 こうしている間にも、父の病気は日一日と重くなって、今は医者も匙を投げてしまいました。弟は妻に向って、

 『お父さんはもう駄目かも知れない。幾ら兄さんがだらしのない親不孝な方だって、これを聞いたならきっと駈けつけていらっしゃるだろう。またこれをお知らせするのは弟としての務めだ。お前ご苦労だが一走り兄さんのお宅まで行って来てくれないか』と云って、妻を兄の許へ使いにやりました。

 流石の兄夫婦もお父さんがもういけないと聞くと、今更のように驚き慌てて駈けつけて来ました。そしてお母さんや弟夫婦と一緒に看病に努めました。その時お父さんは、居並ぶ人々をずっと一渡り見廻して、苦しい息の下からこう言いました。

 『みんなにいろいろ世話をかけたが、今度という今度は、私ももう駄目だろう。で、お前に遺言したいと思うが、こう弱っていてはそれも難しい。それで予てから書いて置いた遺言状があるが、それを今ここでよく読んで貰いたい』こう言いながら遺言状をお母さんの手に渡しましたが、これですっかり安心したものと見えて、その儘眠るように息を引きとってしまいました。

 お母さんと弟夫婦の悲しみは筆にも紙にも尽せない程でした。けれど兄夫婦は一向平気なもので、どこを風が吹くかというような顔をしているのでした。さて、いつまで泣いていても仕方がないというので、いよいよ遺言状を披いて見ると、それにはこんなことが書いてありました。

 『財産は兄弟で二つに分けなさい。だが兄はこれから決して冗費いしないと云う誓書を弟に出して置かなければならない。それからおつ母さんは兄の許にいてどんな不幸を見るか分らないから、弟夫婦で世話をしなければならない。これだけのことをしっかりと言いつける』

 この遺言状の文句が兄の気に入らなかったことは言うまでもありません。幾ら半分貰ったところで、誓書なんか取られたんじゃ、ちっとも自由になりやしない、貰わないと同じことだ。第一長男たる自分に、たった半分というのが気に食わない。今に見ていろ、分配の日が来たら、兄の威光で弟の奴をへこまして、みんなこっちへ取りあげてやる。そうでもしなければ、今までのように暢気な真似は出来やしない、とこう考えましたが、その時は何とも言わずに家に帰りました。そして妻とも相談して、ひたすらその日の来るのを待っていました。

 さて、お父さんの葬式もすみ、家の中が片づいてしまうと、お母さんはいよいよ遺産の分配をしようと思って、兄弟の処へ使を出しました。弟達が行った時には、其処にはもう兄夫婦が頑張って、眼を光らしておりました。そしてお母さんが分配のことを口に出すが早いか、兄は横柄な口調で、

 『だが、そりゃちょっと待って貰いましょう』と言いました。『なるほどお父さんの遺言には弟と半分ずつにしろと書いてあったに相違ありません。だが、それじゃわたしは困ります、弟は兄の云うことに従わなきゃならない。これは今更言わなくつたって分りきったことです。兎に角遺産はわたしがいいように処置しますから、みんなだまってみていて下さい。それにわたしは無職なんだからお金だって随分かかりますからな』

 兄はこう勝手な理屈をつけて、おつ母さんと弟が呆れはててぼんやりしている間に、目ぼしいものはさっさと自分の方へ取りこんでしまいました。そして取るだけのものを取って終ふと、

 『それからおつ母さんですが、あなたは弟の処へ行って下さい。わたし達がお世話するといいんですが、お父さんの遺言もあることですから、残念ながらそれも出来ません』と捨白詞をのこして、後をも見ずに帰って行ってしまいました。余りのことにおつ母さんは兄の姿が見えたくなると、そのままそこに泣き伏していまいました。弟はそれを慰めて言いました。

 『まあおつ母さん、そんなに歎かないで下さい。これだけでも頂けりゃ結構ですよ。お金なんか働きさえすりや幾らでも儲かりますよ。ただで頂いたお金より、働いて儲けたお金の方が、どれだけ有難いか分りません』

 こうして弟はその日から殆ど無一物でお母さんを引き取って世話することになりました。

お金持ちの家に生まれながら、急にこう無一物になった上、おつ母さんまでも養わなければならないというのですから、弟夫婦の生活は並大抵ではありませんでした。で、弟は荷車を一台買いました。そして毎日山から薪を採って来ては、その車に積んで、町から町へ売り歩いて、やっと暮しをたてておりました。夫がこうやって一生懸命働くのですから、妻もなかなかじっとしておりません。家の仕事は言うまでもなく、間があれば賃仕事までもして夫を助け、夫婦心を合せておつ母さんに大切に仕えておりました。

 ある日のこと、弟は例の通り山へ薪を採りに行きました。そして今日はいつもになく、奥の方まで深入りしました。ところが向うの方から、何だか聞き馴れぬ物音が聞えてきましたので、ふとその方を見ますと、絵に書いてある通りの恐しい三匹の鬼が、何か話しながら自分の方へ近づいて来ているのでした。これを見た弟は吃驚仰天、すぐさま側の苦棟の樹に攀じのぼって、高い枝の繁みの中に隠れておりました。鬼どもは彼の隠れている方へ次第次第に近づいて来ます。弟はもう生きた心地もなく、恐しさにぶるぶる慄えながら、じっとその方を見つめておりました。やがて鬼どもは樹の下まで来ると、其処にある大きな岩の前に立ち塞がって、頭らしい赤鬼が

 『えい、やあ、えいえい』と大きな声で掛声をかけました。すると不思議やその岩が音もなく左右にすうつと開いて、そこには大きな洞穴が見えだしました。その時青鬼と黒鬼はちょっと向うの方へ走って行きましたが、しばらくすると、何処から持って来たのか、重そうな、大きな包を肩に担いで来て、その洞穴の中に運び込みました。そして幾度も幾度もそんなことを繰り返していましたが、やがて、

 『さあさあこれでいい、当分此処に蔵って置くことにしよう』と云って、鬼どもは帰って行きました。

 この様子を残らず見ていた弟は、鬼どもの立ち去ったのを見すまして、樹から下りて来ました。そして洞穴の前に立って、

 『えい、やあ、えいえい』と鬼の言った通りを冗談半分に言ってみました。すると扉がすうつと開きましたので、彼はこわいもの見たさに恐る恐る中へ入って行きました。見ると、そこには金や銀を入れた袋が山のように積み重ねてあって、その上には、

 『この金銀は総て正直にしてよく働く者に遣すものなり』と書いた紙片がそえてありました。これを見た弟は、

 『ふうん、じゃ私が貰っても別に差支えない筈だな』と一人ごちました。そして大急ぎで家へ駈けつけて例の荷車を曳いて山にとって返し、金や銀の包を積めるだけ車に積み込んで、我が家へ持って帰りましたが、だまって持って行っては悪いと思ったので、洞穴へは、

 『これは私が貰います。陳芳徳』と書いた紙片を残して置きました。車の上に山のように積んだ金や銀の包を見た時の母と妻の驚きと喜びは言うまでもありません。すぐさま家の中へ持込んで、幾らあるか勘定してみようということになりました。けれども何しろ、山のようにあるお金のことですから、一つ一つ数えていたのではとてもおつつきません。そこで、一つ秤で量ってみようということになって、弟はすぐさま兄の家へ秤を借りに行きました。そして今日の出来事をすっかり話して、秤を貸して貰いたいと頼みました。さあ、それを聞いた兄は羨ましくてたまりません。

 『それじゃおれもお前と一緒に行ってみよう』というので、弟の家へやって来ましたが、見れば弟の狭い家の中はお金がいっぱいで、足の入れ場所もない程です。これを見てはもうじっとしてはおられません。兄はすぐさま我が家へ飛んで帰り、妻にこの事を話して、これからすぐにも行って、自分も金銀を拾って来ると言いましたが、その時もう日の暮に間もないことでしたから、心ならずも明日まで延ばすことにしました。

 さて、翌る日になると、この怠け者で慾ばりの兄は、朝暗いうちから飛び起きて支度を整え、弟から教わった山をさして出かけました。来て見ると、成る程そこには大きな岩の扉があります。

 『ははあ、これだな』兄はこう呟いて、『えい、やあ、えいえい』と弟に教わった通り掛声を二度繰り返してかけますと、案の定、扉はすぐに開きました。兄はもう夢中です。中に飛び込むが早いか、なるべく大きそうな、なるべく重そうな袋をひつ担ぎ、えっちらおっちら扉口の方へ出て来ました。

 『ふん、こうやって晩まで運びや、弟の奴なんか何のものかはだ』ところが大きな石の扉は、いつの間に誰が閉めたのか閉まっていて、押せども引けども開かばこそ。そうだ、あの掛声だとこう思いましたが、扉が閉まっていたのにあんまり驚いたので、その拍子に肝心の掛声をすっかり忘れてしまって、いくら考えてみても、どうしても思い出せません。流石の兄もこれには弱ってしまいました。それでもはじめのうちはまだ、何とかして扉は開かないだろうか、他に出口はないだろうか、あの掛声はどうだつけなと、気違いのようになって走り廻ったり考え込んだりしておりましたが、しまいには精も根も尽き果てて、その場にどっかり坐り込んでしまいました。

 暫くすると扉の表の方が、何となく騒々しくなって来ました。何かがやがや話しているのですが、みんな聞き馴れない声ばかりで、何を言っているのかさっぱり分りません。兄は怖ろしさにぶるぶる慄いながら、小さくなっておりますと、やがて外では例の掛声がして扉が開きました。そして、洞穴の中へ入って来たのは見るも恐ろしい三匹の鬼でした。くんくん鼻を鳴らしながら、

 『今日は途中でどうも人間臭いと思ったら、こんな奴がここに入り込んでいやがる』と云って、三匹で兄を取り捲いてしまいました。

 『やい、この野郎』と中でも頭らしい赤鬼が、恐ろしい顔をして睨みつけながら、こう呶鳴りました。『不届きな奴だ、怠け者の癖をして、よくもこんな真似をしおつたな。そうだ、昨日も来てみたらお金が大分減っていた。やっぱり此奴めが盗んだに相違ない。こんな奴活かして置いては碌なことはしでかさない。さあ叩き殺してしまえ』

 『いいえ、違います。昨日のはわたくしではございません。あれはわたくしの弟で。わたくしはただ盗もうと思ってはいっただけでございます。どうぞご勘弁を願います』兄はこう言って涙を流しながら言い訳しましたが、鬼どもはそんなことは耳にもかけず、たうとう叩き殺してしまいました。山でこんな大騒動が持ち上っておろうとは夢にも知らぬ嫂は、今にも夫が、金や銀を車に山のように積んで帰ってくるだろうと、その帰りを待ち詫びていましたが、いつまで待っても帰ってきません。夜になっても、翌る日になっても帰ってきません。で、たうとう心配で堪らなくなって弟の家へかけつけ、これこれしかじかと一部一什を話しました。

 『これは大変だ』というので嫂はすぐに弟をつれて例の山へ急ぎました。行って見るとどうでしょう。前にあった洞穴など今は痕跡もなく、そこには兄の死骸が捨ててあるばかりでした。嫂は死骸にとり縋って泣き沈みました。しかし、今となってはどうすることも出来ません。弟は死骸を背負って、自分の家へ持って帰り、自分の手で懇ろに葬ってやりました。その時分もう兄の家では、あれほど無法なことをして手に入れた父の遺産も、有るが儘に費い果たした罰で、無一文の状態になっていたのです。で、生き残った嫂は、その日から路頭に迷わなければならなくなりました。そこで善人揃の弟夫婦は、この哀れな嫂を自分の家に引き取って世話をすることにしました。

 これから暫くたったある日のことでした。親戚のある家にお祝い事があって、おつ母さんが招ばれて行くことになりました。けれどおつ母さんは老人のことだから、代理として弟の嫁に行ってくれるように頼みました。

弟の嫁は出かけて行きました。行って見るとその家では大変な御馳走でしたが、弟の嫁は淑やかにその席に列しているだけで、どの御馳走にも一向箸をつけようとしません。で、それと見た向うの人が不審に思って、

 『如何でございます。何かお一つ召上って下さいませんか。どうもお口には合いますまいが』と云いました。けれど嫁はただ、

 『有難うございます』と会釈したばかりで、やっぱり箸を取りません。

 『まあ、どうなすったんでございます。どうぞご遠慮なさらないで』その時弟の嫁は恥かしそうに向うの人にまたこういいました。

 『はい、有難うございますが、今日は母の名代でお邪魔をいたしております、それだのにわたし一人で、こんな結構な御馳走を頂戴しては、何だか母に済まない気がいたしますので』と云いました。これを聞いた向うの夫婦は、すっかり感心してしまって、

 『まあ、そうでございましたが、いつもながら、あなたのお心がけには恐れ入りました。お母さまの分は別にお土産にして差上げますから、どうぞお気遣なさらず、何なりとお好きなものを召上って下さい』と云いました。そこで弟の嫁はやっと箸を手にしました。

 やがて宴が果てると、弟の嫁は主人始め家の人々に丁寧にお礼を言って、御母様へのお土産包を手にして帰途に就きました。ところが途中に一つの小溝がありましたので、それを飛び越そうとした拍子に手がすべって、折角のお土産を溝の中に落しました。

 『あっ』と驚きましたが後の祭、仕方なしに溝の中から包を拾い上げて、『まあとんだことをしてしまった。これでは折角のお土産もだいなしだ』と一人ごちました。が、ふと見るとすぐ傍を綺麗な水が流れておりますので、汚れたご馳走をそこで出来るだけ清潔に洗って、それを持って帰って、おつ母さんにおすすめしました。おつ母さんはこれが一度溝に落ちたご馳走だろうとは知らずに、大層喜んで、さもおいしそうに食べはじめました。するとこの時、今まで晴れ渡っていた空が俄に掻き曇って、大粒の雨がばらばらと降り出し、それと一緒に恐ろしい雷鳴さえも轟きはじめました。さあ、弟の嫁は気が気ではありません。

 『大変なことになってしまった。途中で自分があんな事をして、それをおつ母さんにだまっていたので、神様のお怒りに触れて、こんなことになったに相違ない。いよいよ天罰があたるだろう』と、しばらくの間は独り心を痛めておりましたが、やがて決心して空を拝みながら言いました。

 『わたくしが天罰で雷に打ち殺されるのは仕方がございません。けれどちょっと待って下さい。此処にはおつ母さんがいらっしゃいます。わたくしのためにお母さんを殺しては、重ね重ね不孝になりますから』そしてすぐさま表へ飛び出して、雨の中を大急ぎで一本の大きな樟樹の下へ駈け込みました。その途端、一際激しい雷鳴が轟き渡ったと思うと、めりめりと激しい音がして、さしも大きな樟樹がまつ二つに裂けてしまいました。けれど不思議にも弟の妻の体には何の異状もありませんでした。そればかりか裂けた樹の幹の中からは、金や銀がざくざくするほど現われて来ました。その時何処からともなく声があって、

 『神は汝の善根孝心を愛めて、この金銀を与えるものなり。疑わず持ち帰れよ』と云うのが聞えました。弟の妻の喜びは譬えようもないほどです。早速我が家へ持って帰り、前からの一部始終をおつ母さんや良人に話してみんなで喜びあいました。

 こうして弟夫婦一家は、日一日と富み栄えて行きました。これを傍で見ていた例の嫂は、どうも羨ましくて堪りません。何とか自分にもこういう幸運が向いて来ないものだろうかと、その機会の来るのを只管待っておりました。暫くすると、たうとうその時がやって来ました。またおつ母さんが懇意な家から招かれて、今度は自分がその名代で行くことになったのです。胸に一物ある嫂は、向うへ行ってもなかなか箸をとりません。そして、弟嫁の言った通りを言って、帰る時にはお誂え通りおつ母さんへのお土産を包んで貰いました。で、

 『よしよし。これで何もかも都合よくゆきそうだわい』と心の中で喜びながらその家を出ましたが、途中まで来ると態々小溝の中へ包を落し、それをきれいな水で洗って、家へ持って帰って、おつ母さんに食べさせました。するとこれもやっぱり前と同じように、俄かに雷が鳴りはためきはじめました。嫂は心の底で、

 『いよいよ思う壺だわい』と喜びながらも、わざと神妙な顔をして、弟嫁と同様天を拝して、『此処に落雷されてはおつ母さんが驚いて死んでおしまいです、わたくしをお殺しになるのでしたら、どうぞ暫く待って下さい』と言って表へ飛び出し、一本の榕樹の下に走り込みました。すると、その時、一際大きな雷が鳴りはためいたかと思う間もなく、嫂の注文通り、その榕樹に落ちてくれました。けれど樹が裂けるのと一緒に、自分も敢ない最期を遂げてしまいました。

 弟夫婦はその後も母を大切にし、次第に富み栄えて、しまいには父にも優るお金持になりました。