勇敢なナパアラマ
昔々、あるところに、ひとりの少女が住んでいました。ある日のこと、川へ行って魚を捕まえようと、網を張ってまっていると、上流のほうから一本の棒が流れてきて、網にひっかかりました。少女はじゃまな棒だとばかり、外して下のほうへ投げすてましたが、ふしぎなことに、棒はぎゃくに流れてきて、また網にからみつきました。おかしなこともあるものだと思って、少女はその棒をひろいあげて、家へもって帰りました。
つぎの朝、ふと気がつくと、その棒はどこへいったのか、かげもかたちもありません。
それから三日たつと、少女はなんと大きな男の赤ちゃんを生みました。お母さんになった少女は、その子にナパアラマという名前をつけて、たいせつにそだてました。
ナパアラマは大きくなるにつれて、力が強く、敏捷で勇敢な男の子になりました。五才になると、もう一人で弓矢をつくり、六才になると、それで鳥やけものをしとめるようになりましたが、一度も失敗しませんでした。お母さんはナパアラマをたいそうかわいがり、ナパアラマも、水を汲んだり、畑の草をとったりしてお母さんをたすけ、ふたりはつつましく平和に暮していました。
しかし、そのころ天には太陽がふたつあって、夜と昼の区別がなく、一日中熱い光がこの世を照らし続けるので、人々はたいそう苦しい思いをしていました。
「太陽がひとつになればいいのになあ。夜があれば、私達はぐっすり眠ることもできるのに。」と、人々は口ぐちに嘆きあいました。
ある日、ナパアラマは、平たい器に水を入れ、お母さんにこういいました。
「お母さん、僕はこれから出かけて、ふたつある太陽をひとつにしてこようと思います。もし失敗して僕が死ぬようなことになったら、この器から水がひとりでにあふれでるでしょう。でも、うまくいったときには、この器がひとりで動きます。そのときには、おもちをつくって僕の帰りをまっていてください。」
お母さんはびっくりして、
「お前はまだ、ほんの子どもだよ。そんなあぶないことはおやめ。」
と、とめましたが、ナパアラマの決心は固く、思いとどまらせることはできませんでした。
ナパアラマは弓と矢をもって家を出ると、東へ東へと進んでゆきました。そして東の太陽たちがいつも狩りをする草原につきました。
ナパアラマがふたつの太陽はどこだろうとあたりを見まわしていると、丁度太陽のひとりが、けものを追ってやってきました。ナパアラマは、自分のつくった弓に、狙ったらさいご、外れたことのない自慢の矢をつがえ、太陽めがけてキリリとつるをひきしぼりました。これを見た太陽はおどろいて、くるりとむきを変えて、逃げていってしまいました。
ナパアラマはこんどは草むらにじっと身を潜めて、ふたたび太陽が通りかかるのをまっていました。どのぐらいたったでしょう、やがて太陽がそっとのぞきました。それからナパアラマの姿が見えないので、太陽は安心して、すっかり姿を現しました。そしてまた、けものたちをおいまわして草原をかけめぐりました。
ナパアラマは、太陽が近くにくるまで、しんぼう強くまちました。そしていよいよ太陽が狩りにむちゅうになって、ナパアラマのすぐそばをかけぬけようとしたとき、すっくと姿を現し、太陽めがけて矢を放ちました。矢はふかく大要の心臓をつらぬきました。太陽は血を流しながら、西の地のはてまでに逃げっていって沈んでしまいました。
家で心配しながらまっていたお母さんは、ナパアラマのおいていった器が、ひとりでに動くのを見て、ほっと安心しました。
「ああ、よかった。うまくいったんだわ。」
お母さんは喜んで、ナパアラマにいわれたとおり、おもちをどっさりついて、ナパアラマの帰りをまちました。
子のときから、太陽は天にひとつになりました。一日に昼と夜の区別ができて、人々は昼間働き、くらい夜にはぐっすりとねむることができるようになりました。
ナパアラマにうたれた太陽は、すっかり、血を流しつくして青ざめてしまい、それからは夜にこの世を照らす月になったということです。